haconiwa/ハコニワ

<リノベがつなぐ地域の過去―現在、そして未来>

初めて対象となる敷地と既存の1988年築の旧サッシ工場を見学したのは2019年の春。
場所は町のエッジであり里山の麓である柏崎市横山。道路、駐車場から見る外観から良いイメージは無かったが、
内部に入り、残材や機械、工具が散らばる埃っぽい中に差し込む水平連窓からの夕焼け、その向こうに臨む米山、窓に近づくと眼前に開ける水田。
これならなんとかなるだろうと購入を勧めた。
床面積865.4㎡の工場と337.2㎡の事務所からなる合計1202.6㎡の鉄骨造(梁間ラーメン構造 桁行ブレース構造)の建物。
もともとそこにあった合理的なフレームや老朽化したインテリア、また広大な水田やその向こうに臨む米山。それらに対して新しい視点や関わり方をデザインし、その価値を最大化。
町と水田そして里山をつなぎ、屋外と屋内をつなぎ、普段とショッピングをつなぎ、この土地を未来に楽しくつなぐことを目指し、
この建物をフルリノベーションし複数の店舗が軒を並べる複合商業施設「ハコニワ」を作ることを共有し、プロジェクトはスタートした。


中越沖地震を経験しているこの建物の屋根や壁はかなり老朽化が進み、鉄骨のフレームにも歪みがあり、床の不陸も悪く、建物内にて30cmの高低差が確認された。
30数年の間に行われていた無申請の増改築も多く、この建物を現在の建築基準法に照らし、適切に増改築および用途変更をすることも困難であった。
このような状況下で、限られた図面と役所に保管されていた資料を読み解き、また当時建設に携わった企業へ相談し、同様の建物の当時の基本仕様を教えて頂いたりしながら、
まずは1988年竣工当時の姿をあぶりだした。
構造家と相談しながら、補強方法を定め、新しい建築が既存建築に新たに負荷を与えない、そして歪みや不陸を吸収するような改築方針を定め、またすでに余計な負担となっていた増築部分を除却することを決めた。
これにより、この建物を適法(既存不適格はあるものの)なものとし、その中で床面積の増減なく、増改築無しの「用途変更」によりこの建物のリノベーションが可能となった。
一期工事では、事務所部分は閉鎖し利用しないこととし、用途変更面積を865.4㎡(1000㎡未満)とすることで、防火区画、耐火建築の適用を外し、それによりコスト軽減を図ると同時に、
あたかも新築のようなリノベーションになることを避けることが出来た。


水田と里山を背に、里山と街の境界とも呼べる位置にあるこの「ハコニワ」。
それらを有機的につなぐ、まさにどこからでも入ることのできる、大きく開けた「境界の弱い」公園のような施設を目指すこととし設計を進めた。
工場という用途のため周辺の豊かな環境に対し閉じていた建物に大きく開口を開け開放することで、人を呼び込むと共に眺望、採光、通風などの様々な自然環境を屋内に取り込む。
屋外、半屋外、屋内が混在する大きな工場空間に、テナントを誘致するための7個の木造の箱を屋内と屋外、半屋外と屋内を跨ぐように配置した。
それにより、屋外と屋内の境界がより曖昧となり、屋外から屋内そしてまた屋外への移行がシームレスに、さらに町とハコニワそしてそこから水田や里山への移行がよりシームレスに感じられるように計画した。
多くの複合商業施では一度施設に入館し、その施設の中で色々な店舗への出入りを繰り返し、施設を巡るという、目的空間に満たされた商業ベースの体験を主としている。
ハコニワでは商業ではなく、あくまで公園であることを主とし、無目的に居ることが許される、「目的がなくてもいいんだ」と感じて頂けることを目指した。
公園のような居心地を作ることが、その先にある消費活動や再訪の動機になり、利用者の日常の一部として永く愛される施設となっていくだろうと考えている。


7つの木造の箱の構造材や仕上げ材、そしてハコニワ内のほとんどの床材にはこの土地の杉材を採用している。
近くの材料を採用することが決して合理的ではない現代だが、多くの方々に協力をして頂くことで地材地建が実現できた。
子供達が眺め指をさすあの山で採れた木材でハコニワを作り、その木材に触れてもらうことは、設計者としては何としても実現しなくてはならない譲れない価値であり、これもまた里山と町の境界を弱くし近くにする設計の一つであった。
また、ハコニワ内にある大きな木工家具(ツリーボックスとキッチン)は近くの新潟工科大学の建築を学ぶ学生たちとの協働により実現した。
参加した学生たちにとっては知識や経験はもちろん、大きな達成感とハコニワに対する将来まで繋がる愛着を得られたのではないかと思う。
多くの人々を巻き込み、山を巻き込み、大学を巻き込み、プロジェクトを進めるごとに私たちのデザイン対象は一つの旧サッシ工場を越えて、広いエリアの可能性を繋ぐ「弱い境界」のデザインとなっていった。






竣工
一期2020.10   二期2022.7
種別
リノベーション(1988年築建物の改築+用途変更)
用途
複合用途施設(主用途 物品販売店舗)
規模
一期865.4㎡ 二期337.27㎡
構造
鉄骨造(インフィルボックス木造)
所在
新潟県柏崎市横山
設計
東海林健建築設計事務所(担当 東海林健 嶋田貴之 平野勇気)
構造監修
田中哲也建築構造計画(担当 田中哲也)
施工
池田組(担当 江口仁志) 太田材木店(太田正昭 大場真也)
撮影
© アトリエラボン 村井勇
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